さ死すせ素

夜。山の中にて。

こんな季節なのにまだ蚊がいる。

道じゃないところを進んでいるのに灰色になった白紙や色褪せた空き缶がある。

遠くに誰かいる。

こんな時間に山にいるのはキチガイや死体を隠しに来るような人だから怖い。

黒い塊でしかないそれは「おい!おい!」と怒声を上げて近づいてくる。

舌を噛まないようにしっかり口を閉じてでこぼこの道を走って逃げる。

 

深夜。誰かの庭にて。

犬小屋で薄茶色の大きな犬が顎を自分の前足に乗せて眠っている。

犬が起きるまで静かに見下ろす。

でもちっとも起きないから小さな声で「ほねっこ。ほねっこ。」と声をかける。

目を覚ました犬は慌てて前足を前後に二、三回ばたつかせて爪でがちゃがちゃ音を立てた後に吠えだした。

おん!おん!みたいな咳き込むような短い大声。

何故か 2 軒隣の家の電気が点いた。

つまらなくなって庭を出る。

犬の鳴き声が安堵を含みさっきより大きな声になった。

 

早朝。浅い海の底にて。

仰げばまだ弱々しい朝日で白と水色の水紋が綺麗。

そこにサーファーたちの足が見える。

近くに来た足を引っ張って水中に引きずり込む。

よく日に焼けているのにそれでも顔面蒼白になるのは分かるものだね。

目を丸く剥き出している。

上昇しようと腕をぐるぐる回している。

手を離して見送る。

クルリと踵を返して颯爽と立ち去りたいけれど水の重柔らかい抵抗を受けてゆっくりとしたものになる。

 

X時。どこかにて。

深くなっていく夜、そしてそれを徐々に薄め、日の出によって劇的に朝に代わる。でも今はもう昼かな、それともそれも過ぎて夜?

頭が混乱するから明るいのか暗いのか暑いのか寒いのか分からない。

上下も分からないからまだ水中なのかな。

水の抵抗があるかな?ないような気もするから大気中かもしれない。

ああ。そうか。夜、山に車にひかれた猫を埋めようと思ったんだ。

深夜に埋めるところを探して。

海辺で見つけた車にひかれた猫を。

眩暈をしているのかな。していないのかな。

暑かったり痛かったり息ができないで死ぬのは嫌だけどこれなら、

いや、訳が分からなくても分かっても永遠も嫌だ。